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公開日:執筆:公認会計士・税理士 嶋田景太

派遣と職業紹介、両方の許可があると資産要件はどうなる?

「派遣も有料職業紹介もやっています。資産要件は足し算ですか、別々ですか」。「更新のたびにAUPを2回頼まないといけないのですか」。両方の許可を持つ会社の経営者から、このように聞かれることが多いです。

結論から言うと、資産要件は事業ごとに別々に決まりますが、同じ貸借対照表で両方を満たす必要があります。同じお金を派遣の分と職業紹介の分に二重に数えることはできないので、実質的には合計額で判定されます。一方、AUP(合意された手続)の報告書は、同じ月次決算書を使って1回の作業で両方の申請に対応できることが多いです。

2,000万円派遣の基準資産額(1事業所あたり)
350万円職業紹介の基準資産額(1事業所あたり)
1枚両方を満たす貸借対照表は同じ1枚
要件は別々に決まるが、見る決算書は同じ1枚

要件は事業ごとに別。でも見る決算書は同じ1枚

労働者派遣と有料職業紹介は、根拠となる法律が別です。派遣は労働者派遣法、職業紹介は職業安定法です。そのため資産要件も、それぞれの許可基準で別々に定められています。

2026年10月1日現在の主な要件は次のとおりです。基準資産額とは、資産の合計から負債の合計を引いた金額(純資産に近いもの)です。

項目 労働者派遣 有料職業紹介
基準資産額 2,000万円×事業所数 350万円×事業所数
現金・預金 1,500万円×事業所数 150万円+60万円×(事業所数−1)
負債との関係 負債総額の7分の1以上 定めなし

ここで大事なのは、どちらの要件も「会社全体の貸借対照表」で見るという点です。派遣用の決算書、職業紹介用の決算書と分けて作るわけではありません。同じ1枚の貸借対照表が、両方の基準を超えている必要があります。

「合算される」の本当の意味

「合算される」という言い方は、少し誤解を生みやすいです。正しくは、派遣の2,000万円と職業紹介の350万円を、同じ資産で二重に満たすことはできない、という意味です。

たとえば、派遣1事業所・職業紹介1事業所の会社なら、基準資産額は2,000万円+350万円=2,350万円以上が目安になります。現金・預金も、1,500万円+150万円=1,650万円以上が目安です。

1事業所ずつ持つ会社に必要な基準資産額
派遣のみ2,000万円
職業紹介のみ350万円
両方(合計で判定)2,350万円
同じ資産を2回使えないので合計額で見られる

「派遣で2,000万円あるから、職業紹介の350万円は自動で満たす」と考えるのは危険です。審査では、両方の事業を同時に行うのに十分な資産があるかを見られます。片方の要件だけ見て安心していると、もう片方の申請で指摘を受けることがあります。

派遣だけにある「配慮措置」

派遣には、小規模な派遣元向けの配慮措置があります。1事業所のみで派遣労働者が10人以下なら、基準資産額1,000万円・現金預金800万円に緩和されます(更新時にも適用あり)。職業紹介にはこうした緩和はありません。両方を持つ会社では、派遣の緩和後の金額に職業紹介の350万円を足して考えることになります。

許可の満了日が違えば、申請はそれぞれの時期に

派遣と職業紹介の許可は、取った時期が違えば満了日も違います。どちらも新規は3年、更新後は5年の有効期間です。更新申請は、満了日の3か月前までに出すのが原則です。

満了日が別々なら、申請も別々の時期に行います。派遣の更新のついでに職業紹介も一緒に更新する、ということはできません。許可証を2枚並べて、満了日をカレンダーに書いておくことをおすすめします。

1満了日を確認
お客様許可証2枚の満了日3か月前が目安
2月次決算書を作る
税理士直近の試算表両方の要件を点検
3AUP報告書
税理士同じ決算書で1通両方の申請に使う
4労働局へ申請
お客様派遣と紹介は別の様式満了日ごとに提出
資料づくりは1回、申請は許可ごと

満了日が近いなら、まとめて準備できる

満了日が数か月以内に並んでいる場合は、月次決算書とAUPをまとめて準備し、それぞれの期限に合わせて提出する形が取れます。満了日が1年以上離れている場合は、それぞれの時期に改めて直近の決算書を用意します。

AUPは2回要る?資料は1回で済むことが多い

資産要件を直近の決算書で満たしていれば、AUPは不要です。AUPが必要になるのは、決算書では足りず、増資や債務免除の後の月次決算書で要件を満たすことを示すときです。

このとき作る月次決算書は会社全体のもので、派遣用と職業紹介用に分かれません。そのため、同じ月次決算書を対象にしたAUP報告書を1通作れば、派遣と職業紹介の両方の申請に添付できることが多いです。会社側で用意する資料(試算表・通帳・登記事項証明書など)も1回分で済みます。

ただし、次の点には注意してください。

  • 申請の時期が離れると、月次決算書の基準日を新しくする必要が出る。その場合はAUPも作り直しになる
  • 派遣と職業紹介では申請様式が違うので、報告書の添付先はそれぞれ別
  • 労働局の担当窓口が確認する項目は許可ごとに異なるため、報告書の記載は両方の基準に対応させる
労働者派遣
基準資産2,000万円×事業所数
現預金1,500万円×事業所数
負債の7分の1以上
更新後の有効期間は5年
小規模事業者に配慮措置あり
有料職業紹介
基準資産350万円×事業所数
現預金150万円+60万円×追加事業所
負債の制限はなし
更新後の有効期間は5年
配慮措置はなし
2026年10月1日現在の主な要件

両方の許可を持つ会社がよく迷う点

最後に、ご相談で迷われることが多い点を整理します。

迷う点 考え方
要件は合算?別々? 別々に決まるが、同じ決算書で両方を満たす(実質は合計額)
片方だけ満たせないとき 両方の満了日を見て、早い方に間に合う増資・債務免除を検討
AUPは2通? 同じ月次決算書なら1通で足りることが多い(時期が離れれば作り直し)
手数料 許可ごとに別。更新は派遣55,000円×事業所数、職業紹介18,000円×事業所数

資産要件の判定は、負債の内容や未払金の扱いで結果が変わります。両方の許可を持つ会社ほど、決算書を一度ていねいに見直しておくと安心です。派遣の更新の流れは /audit/worker-dispatch/renewal/、職業紹介の許可は /audit/employment-placement/ に詳しくまとめています。

参考(一次資料)

  • 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)
  • 職業安定法
  • 厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」(許可基準・資産要件)
  • 厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」(許可基準・資産要件)
  • 労働者派遣法施行規則・職業安定法施行規則(手数料)
公認会計士・税理士 嶋田景太

この記事を書いた人

嶋田 景太公認会計士・税理士

有限責任監査法人トーマツで会計監査に従事し、Deloitte Australia 駐在を経て、2021年に嶋田景太公認会計士・税理士事務所を設立。埼玉県草加市で、税務顧問・相続税申告・会計監査を行っています。事務所について

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