贈与税のコラム
年110万円の贈与は本当に何もしなくていい?生前贈与加算7年と名義預金の落とし穴
結論:110万円以下でも「書類と渡し方」は必要です
「子どもにお金を渡したい。年110万円までなら本当に何もしなくていいのか」。親世代の方からよく聞かれる質問です。結論から言うと、年110万円以下なら贈与税の申告も納税もいりません。ただし「贈与の証拠を残すこと」と「相続前7年分は足し戻されること」の2点に注意が必要です。この2つを忘れると、せっかくの贈与が相続税の調査で否認されることがあります。
暦年課税とは?110万円の正しい数え方
贈与税の基本の計算方法を「暦年課税(1月から12月までの1年ごとに計算する方式)」といいます。もらった人1人あたり、年110万円までは税金がかかりません。超えた分にだけ贈与税がかかり、翌年2月1日から3月15日までに申告します。
注意したいのは、110万円は「もらう人」の側で数えることです。
- 父から110万円+母から110万円をもらうと、合計220万円。110万円を超えた分に贈与税がかかります
- 父から子2人へ110万円ずつなら、子それぞれが110万円以内なので非課税です
相続の前7年分は「なかったこと」になる
亡くなった方から相続で財産をもらった人は、亡くなる前7年以内の贈与を相続財産に足し戻して相続税を計算します。これを「生前贈与加算」といいます。110万円以下の贈与でも、足し戻しの対象です。
以前は3年でしたが、令和6年1月1日以後の贈与から7年に延びました。延長された4年分については、合計100万円まで加算しない扱いがあります。経過措置があるため、まるごと7年分が加算されるのは令和13年以後の相続からです。
ポイントは「相続で財産をもらわない人への贈与は、原則として足し戻されない」ことです。たとえば相続人でない孫への贈与は、加算されないのが原則です(遺言で財産を渡す場合などの例外あり)。元気なうちに早めに始めるほど、加算の外に出る贈与が増えます。
いちばん怖いのは「名義預金」
税務調査で最も指摘が多いのが名義預金です。名義預金とは、口座の名義は子どもでも、実質は親のお金とみなされる預金のことです。名義預金と判定されると贈与はなかったことになり、全額が相続財産に数えられます。何年前の入金かは関係ありません。
判定で見られるのは、おおむね次の点です。
| 見られる点 | 安全な状態 |
|---|---|
| 通帳・印鑑・カード | 子ども本人が保管している |
| 口座の存在 | 子どもが贈与を知っている |
| お金の使い道 | 子どもが自由に使える |
| 届出印 | 親の口座と同じ印鑑を使っていない |
贈与契約書と渡し方のコツ
贈与は「あげます」「もらいます」の合意で成立します。口約束でも有効ですが、後から証明できません。そこで毎回、簡単な贈与契約書を作っておきます。書くのは次の4点で足ります。
- 贈与する金額と、贈与する日
- あげる人・もらう人の住所と氏名(それぞれ自署・押印)
- 渡し方(振込先の口座)
- 契約書を作った日付
渡すときは現金手渡しではなく、子ども名義の口座への振込にします。通帳に日付と金額が残り、動かぬ証拠になります。また「毎年110万円を10年渡す」とまとめて約束するのは危険です。1,100万円の一括贈与とみなされる恐れがあるためです。契約書は毎年、その年の分だけ作るのが安全です。
あえて110万円を少し超えて申告する方法も
あえて111万円など少し超える額を贈与し、少額の贈与税を申告する方法もよく使われます。申告書という公的な記録が残るためです。ただし、申告だけでは名義預金の疑いは消えません。契約書・振込・本人管理の3点セットが先です。
なお、令和6年からは相続時精算課税(親からの贈与を相続時にまとめて精算する方式)にも年110万円の基礎控除ができました。どちらの方式が有利かは、財産の額や家族構成で変わります。細かな金額の試算は、ご相談時に一緒に確認します。
まとめ:やることは3つだけ
- 毎年、贈与契約書を作る(その年の分だけ)
- 子ども名義の口座へ振込で渡し、通帳・印鑑は子が管理する
- 相続前7年分は足し戻される前提で、早めに計画的に始める
110万円以下なら申告は不要ですが、「何もしなくていい」わけではありません。証拠を残す習慣が、将来の税務調査からご家族を守ります。
参考(一次資料)
- 国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合
- 国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
- 国税庁 No.4429 贈与税の申告と納税
- 国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
- 相続税法